税理士のAIツール利用状況|ツール名でなく4つの用途で比較
税理士事務所のAIツール利用状況を、2026年春の6,327社の数字と支援先の実態から整理します。組織で推進する中小企業は3社に1社、4割近くは方針未定です。調べ物・仕訳・一次対応・資料作成の4つの用途で任せる範囲を決める方法を説明します。

税理士事務所でAIツールがどう使われているかを調べると、出てくるのは「便利になる」という話ばかりです。どの事務所がどこまで使っているのか、実際の割合はなかなか見えてきません。
2026年春の時点で、中小企業のうち生成AIを組織として推進しているのは3社に1社です。大企業は6割に届いています。そして全体の4割近くが「方針は決めていない」状態です。
この記事では、税理士事務所のAIツールの使われ方を、調査の数字と私が支援先で見てきた実態から整理します。あわせて、ツールを名前で比べるのではなく、用途で比べる見方を説明します。
要約
- 2026年春の時点で、生成AIを組織として推進している中小企業は3社に1社で、4割近くが「方針は決めていない」状態です
- 差がつくのはツールの選び方よりも、AIに任せる範囲と人が確かめる範囲を先に決めているかどうかです
- ツール名ではなく、調べ物と下書き、仕訳と照合、顧問先の一次対応、資料作成の4つの用途で比べると、ツールが入れ替わっても基準は変わりません
事務所として決めていないまま、個人がばらばらに使っている
| 回答(2026年3〜4月・6,327社) | 割合 |
|---|---|
| 会社として活用を推進 | 20.3% |
| 個人で活用していることもある | 27.1% |
| 方針は決めていない | 37.5% |
利用状況の実態は、二つに分かれています。事務所としてAIを使うと決めている少数派と、方針がないまま職員がそれぞれ自分のスマホで使っている多数派です。
2026年3月から4月、6,327社の回答をまとめた数字では、「会社として活用を推進」が20.3%でした。一方で「個人で活用していることもある」が27.1%、「方針は決めていない」が37.5%です。方針がないまま個人任せになっている事務所のほうが、はっきり決めている事務所より多い状態です。
私が話を聞いてきた小規模な事務所も、ほぼ同じでした。所長は使っていないが若手が調べ物に使っている事務所もあれば、所長だけが使っていて職員には広がっていない事務所もあります。どちらも「事務所として決めていない」に入ります。
差がつくのは、ツールの種類ではなく任せる範囲の決め方
| AIに任せる | 人が行う |
|---|---|
| 帳簿の入力 | 税法の解釈 |
| ルールどおりの計算 | 顧問先ごとの事情の判断 |
| 下書きと要点整理 | 数字と年度の原本確認 |
うまく使えている事務所とそうでない事務所を見比べても、選んだツールに違いはありませんでした。AIに任せる範囲と、人が確かめる範囲を先に決めているかどうかです。
私自身、生成AIに税務相談の回答案を作らせたところ、配偶者控除の所得制限額が改正前の古い数字のまま出てきたことがあります。別のAIでは、判断が分かれる節税の手法を「合法です」と言い切りました。どちらも、そのまま顧問先に渡していたら事故になっていました。
この経験から、私は線引きを先に決めるようにしています。帳簿の入力やルールどおりの計算はAIに任せ、税法の解釈と顧問先ごとの事情の判断は人が行います。線引きがない状態でツールだけ増やしても、確認の手間が増えるだけです。
比べるなら、ツール名ではなく4つの用途で分ける
| 用途 | 向いているもの | 人が確かめる範囲 |
|---|---|---|
| 調べ物と下書き | 汎用の対話型AI | 税法の数字と年度 |
| 仕訳と照合 | 会計ソフトのAI、自動化の仕組み | 異常値の判断 |
| 顧問先の一次対応 | 回答テンプレート、フォームの振り分け | 外部に渡すデータの範囲 |
| 資料作成 | 図表と文章の生成 | 数字の出どころ |
「どのAIツールがいいですか」という質問には、答えにくいです。ツールの名前は毎月のように増え、機能も変わります。比べる軸をツール名にすると、比較表は数か月で古くなります。
代わりに、事務所の仕事を4つの用途に分けて、それぞれに何を使うかを決めます。調べ物と下書き、仕訳と照合、顧問先からの一次対応、資料作成の4つです。
この分け方なら、ツールが入れ替わっても考え方は変わりません。用途ごとに「どこまで任せるか」を決めておけば、新しいツールが出ても同じ基準で試せます。
4つの用途を、どのツールにどこまで任せるか
| 用途 | 私が実際にやっていること |
|---|---|
| 調べ物と下書き | 下書きは任せ、送付前に数字を原本で当てる |
| 仕訳と照合 | 三点照合を自動化し、確認時間を2分の1〜3分の1に |
| 顧問先の一次対応 | 渡すデータの範囲を先に決めてから始める |
| 資料作成 | 数字は会計ソフト、見せ方と文章はAI |
用途1 調べ物と下書き
ChatGPTやClaudeのような汎用の対話型AIが向いています。顧問先への説明文の下書き、通達の要点整理、メールの文案などです。
ただし、税法に関わる数字と年度は必ず原本で確かめます。AIは古い情報を自信のある書き方で出してきます。下書きは任せ、公開や送付の前に人が数字を当たる、という順番を崩さないことです。
用途2 仕訳と照合
会計ソフトに組み込まれたAIや、自動化の仕組みが向いています。私は銀行明細、領収書、請求書の三点照合をAIで自動化し、確認にかかる時間を2分の1から3分の1に減らしました。
ここでの線引きは、異常値の扱いです。AIが「合わない」と出したものは、必ず人が引き取ります。AIの役割は、人が判断するための材料をそろえるところまでにとどめます。判断そのものは人が下します。
用途3 顧問先からの一次対応
よくある質問への回答テンプレートや、問い合わせフォームの振り分けが向いています。繁忙期に、電話とメールの一次対応で時間が消えている事務所ほど有効です。
ただし、顧問先の財務データを外部のAIに渡す範囲は、先に決めておきます。どこまで渡してよいかを決めずに始めると、あとから止められなくなります。
用途4 資料作成
説明資料や図表の作成に向いています。数字そのものは会計ソフトから出し、AIには見せ方と文章を任せる分担が安全です。
つまずきやすいところ
| つまずき | どうするか |
|---|---|
| 最初から全部を自動化しようとする | 3〜6か月かけ、7割の出来で動かし始める |
| 設定した本人にしか分からない | 設定と判断基準を文書化し、手動手順も用意する |
| 何を減らしたかったのか忘れる | 減らす作業と時間を入れる前に決める |
最初から全部を自動化しようとして止まってしまいます。私が支援するときは、3か月から6か月をかけて段階的に入れます。最初は7割の出来で動かし、使いながら直します。完成を待つと、いつまでも始まりません。
設定した本人にしか分からない状態になります。AIの設定と判断の基準を文書に残し、他の職員でも引き継げるようにしておきます。あわせて、AIが使えないときの手動の手順も用意します。ここを省くと、担当者が休んだ日に業務が止まります。
「便利そうだから」で入れて、何を減らしたかったのかを忘れます。入れる前に、どの作業の何時間を減らすのかを決めておきます。減った時間を経営相談のような踏み込んだ仕事に回せて、初めて意味が出ます。
よくある質問
Q: 無料のAIツールでも事務所の仕事に使えますか。
A: 調べ物と下書きなら使えます。ただし顧問先の情報を入力する用途では、データの扱いが明記された有料版か、事務所向けの仕組みを選んでください。無料版は入力内容がAIの学習に使われる場合があります。
Q: AIが出した税額をそのまま使ってもいいですか。
A: そのまま使わないでください。ルールどおりの計算はAIが得意ですが、適用の可否や特例の判断は税理士の仕事です。AIの数字と実際の取引データを毎回突き合わせる手順を、先に決めておきます。
Q: 職員がAIを嫌がります。どう進めればいいですか。
A: 定型作業だけを任せる線引きを示し、よくある質問のひな型を先に用意しておくと、抵抗は減ります。「確認作業が減った」と実感できる場面から始めてください。「仕事を取られる」という受け止め方は、そこで変わります。私自身も、毎日少しずつ触って慣れるしかありませんでした。
まとめ
税理士事務所のAIツールの利用状況は、事務所として決めた少数と、個人任せの多数に分かれています。実際に「方針は決めていない」が4割近くを占めています。
差がつくのはツールの選び方よりも、任せる範囲の決め方です。用途を4つに分け、それぞれで人が確かめる範囲を先に決めれば、ツールが入れ替わっても基準は変わりません。
まずは、いま職員が個人で使っているAIを洗い出すところから始めてください。そこに事務所としての線引きを1つ足すだけで、「決めていない事務所」から抜け出せます。自分の事務所ではどこから手をつければよいかを知りたい方は、無料相談をご利用ください。
参考・出典
- 東京商工リサーチ「『生成AI』大企業の約6割が組織で活用推進」(2026年3月31日〜4月7日調査・有効回答6,327社): https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1202766_1527.html
- PwC Japanグループ「生成AIに関する実態調査2026 春 6カ国比較」: https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/generative-ai-survey2026.html
- 国税庁「税理士に関する情報」: https://www.nta.go.jp/taxes/zeirishi/index.htm
- 日本税理士会連合会「税理士登録者数」: https://www.nichizeiren.or.jp/tax-accountant/enrollment/
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