税理士業務のどこにAIが入るのか|5つの業務を工程に分けて任せる範囲を決める
税理士業務のどこにAIを使えるかは、業務の名前ではなく工程で決まります。記帳から税務調査への対応までの5つの業務を工程に分け、AIに任せる工程と税理士が担う工程を一覧にします。繁忙期から逆算した着手順と失敗例を、税理士事務所のAI集客(GEO・AI-SEO対策)を支援する立場から説明します。

税理士業務にAIを使いたいと考えて調べると、「記帳が自動になる」「申告書の下書きが作れる」という話は見つかります。ところが、自分の事務所のどの業務の、どの部分にAIが入るのかは、読んでも分かりません。
私は税理士ではなく、税理士事務所の集客と業務の効率化を、AIと検索の面から支援しています。この記事では、税理士業務を5つに分け、それぞれを「受け取る」「入力する」「確かめる」「判断する」「伝える」の5つの工程に分けます。
そのうえで、AIが入る工程と人がする工程を業務ごとに示し、どの業務から手を付けるかを繁忙期から逆算して決める方法を説明します。
要約
- 税理士業務にAIをどう使うかは、業務の名前ではなく工程で決まります。どの業務も「受け取る」「入力する」「確かめる」「判断する」「伝える」の5つの工程でできています
- AIに任せるのは、「受け取る」「入力する」と、「確かめる」の前半までです。「判断する」と「伝える」は、税理士法で税理士業務と定められた仕事で、税理士が担います
- 最初に手を付けるのは記帳と月次です。12月から3月の繁忙期から逆算して、10月までに照合の工程で回り始めている状態を作ります
「税理士業務のどこにAIを使えるか」は、業務の名前で考えると決められない
| 業務の名前で決めたとき | 何が起きるか |
|---|---|
| 記帳を丸ごとAIに任せる | 合わない数字がそのまま帳簿に残る |
| 申告を丸ごとAIから外す | 下書きや転記まで人が続ける |
| 「一部は使える」で話が止まる | AIを入れる場所が決まらない |
「記帳にAIを使えますか」と聞かれれば、答えは「一部は使えます」です。「申告書の作成に使えますか」も同じ答えになります。どの業務にも、AIで済む部分と、税理士が見なければならない部分が混ざっているからです。
ところが、事務所でAIの話をするときは、「記帳」「申告」「年末調整」のように業務の名前で話が進みます。名前で話すと、「記帳はAIでいける」「申告は無理」のように、業務ごとに丸ごと決めることになります。
こうして決めると、どちらに転んでもうまくいきません。記帳を丸ごと任せれば、合わない数字がそのまま帳簿に残ります。申告を丸ごと外せば、下書きや転記のようにAIで済む作業まで、人が続けることになります。業務の名前で考えているかぎり、AIを入れる場所は決まりません。
原因は、業務をひとまとめに見て、工程に分けていないこと
| 工程 | AIに向くか | 例 |
|---|---|---|
| 受け取る | 向く | 証憑の読み取り、明細の取り込み |
| 入力する | 向く | 仕訳の候補づくり、転記 |
| 確かめる | 前半は向く | 突き合わせて合わないものを拾う。扱いは人が決める |
| 判断する | 人が持つ | 経費に入れるか、特例を使うか |
| 伝える | 人が持つ | 顧問先への報告、税務署への説明 |
税理士業務は、どれも同じ5つの工程でできています。資料を受け取り、数字を入力し、合っているかを確かめ、どう扱うかを判断し、顧問先や税務署に伝えます。記帳でも申告でも、この順番は変わりません。
AIが得意なのは、このうち「受け取る」「入力する」と、「確かめる」の前半です。証憑を読み取って仕訳の候補を出す作業や、明細どうしを突き合わせて合わないものを拾う作業がそれにあたります。答えが一つに決まる作業なので、AIに向いているのです。
一方で、「判断する」と「伝える」は、顧問先の事情を聞かなければ決まりません。経費に入れるか、特例を使うか、税務署にどう説明するかなどは、税理士法第2条で税理士業務と定められた税務代理、税務書類の作成、税務相談にあたります。第52条で、税理士と税理士法人でない者は税理士業務を行えません。
国税庁も、所得税や消費税の確定申告についての質問に、AIが自動で答えるチャットボットを公開しています。回答は一般的な事項の説明で、手続は利用者が自分の判断と責任で行う前提です。このように答える範囲を先に区切ってからAIに任せる考え方は、事務所の仕事でも同じです。
国税庁自身も、税務行政でのAIの活用を、過去のデータから先を予測する予測AIと、文章や画像を作る生成AIの2つに分けて進めています。そのうえで、生成AIが事実と違う内容をもっともらしく答える危険には十分注意するとしています。事務所で「確かめる」工程を人が持つのも、同じ理由からです。
5つの業務を5つの工程に分け、AIが入る工程を一覧にする
| やること | 何のためか |
|---|---|
| 事務所の仕事を5つの業務に分ける | どの業務の話をしているかをはっきりさせる |
| 業務ごとに5つの工程に分け、任せる工程を決める | 任せる場所と人が持つ場所を一行で書けるようにする |
| 繁忙期から逆算して着手順を決める | 12月から3月に入ってから試さずに済むようにする |
やることは3つです。まず、事務所の仕事を、記帳と月次、決算と申告書の作成、年末調整と法定調書、税務相談と一次対応、税務調査への対応の5つに分けます。次に、それぞれを5つの工程に分け、AIに任せる工程と人が持つ工程を決めます。最後に、繁忙期から逆算して、どの業務から手を付けるかを決めます。
工程に分けると、「記帳はAIでいけるか」という問いが、「記帳の入力と照合はAIに任せ、合わない数字の扱いは人が決める」という形に変わります。任せる場所と人が持つ場所が、業務ごとに一行で書けるようになります。
着手する順番を決めるのは、12月から3月の繁忙期が毎年来るからです。繁忙期に入ってから新しいやり方を試す余裕はありません。繁忙期の前に、記帳と月次で回り始めている状態を作ります。
業務ごとに、AIが入る工程と人が持つ工程を決める
| 業務 | AIに任せる工程 | 人が持つ工程 |
|---|---|---|
| 記帳と月次 | 明細の取り込み、仕訳の候補、突き合わせ | 合わない数字の扱い、月次の報告 |
| 決算と申告書の作成 | 決算整理の候補、転記、申告書の下書き | 特例の判断、最終確認 |
| 年末調整と法定調書 | 控除証明書の読み取り、計算、不備の確認 | その人の事情を聞いて決める質問 |
| 税務相談と一次対応 | 問い合わせの振り分け、記録、文章の下書き | 答えを決めること |
| 税務調査への対応 | 資料の検索、時系列の整理 | 説明の組み立て |
記帳と月次では、入力と照合を任せ、合わない数字を人が引き取る
記帳と月次は、5つの業務の中でAIが入る工程がいちばん多い業務です。銀行明細の取り込み、領収書の読み取り、仕訳の候補づくりは、すでに会計ソフトの機能として使えます。「受け取る」と「入力する」は、ここから任せられます。
「確かめる」の工程では、明細と証憑を突き合わせて、合わないものを拾う作業をAIに任せます。ただし、拾った数字をどう扱うかは人が決めます。AIの役割は、人が判断する材料をそろえるところまでです。どのツールにどこまで任せるかは、税理士のAIツール利用状況|ツール名でなく4つの用途で比較で説明しています。
月次の報告で顧問先に何を伝えるかは、人が持ちます。数字の並びをそのまま送るのではなく、来月までに決めておくことを一言添えるのが、この工程の仕事です。
決算と申告書の作成では、下書きと転記を任せ、特例の判断と最終確認を税理士が持つ
決算では、決算整理の候補出しや、勘定科目内訳書への転記のような作業をAIに任せられます。申告書の下書きも、会計データがそろっていれば作れます。「入力する」と「確かめる」の前半は、ここでも任せる工程です。
一方で、特例を使うか、繰越や引当をどう扱うかは、顧問先の事情で答えが変わります。ここは「判断する」の工程で、税務書類の作成として税理士の業務です。AIの下書きは、税理士が最後に目を通して確かめます。この順番を崩さないようにしましょう。
申告書に載る数字は、AIが出したものであっても、提出する税理士の名前で出ます。計算式や転記の結果を原本の数字と突き合わせる時間を、最初から予定に入れておきます。
私も自分の事業で、AIに提案されたExcelの関数をそのまま使ったことがあります。行をコピーしたとたんに合計が狂い、調べてみると、範囲の指定が絶対参照(行を動かしても同じ範囲を指し続ける指定)になっていませんでした。コピーするまでは合っていたので、あとから数字を突き合わせなければ気づけないずれでした。
年末調整と法定調書では、読み取りと計算を任せ、問い合わせの答えを2種類に分けて用意する
年末調整は、控除証明書の読み取り、扶養や保険料控除の計算、法定調書への転記と、AIに任せられる工程が続きます。従業員から集める書類の不備を拾う作業も、AIに向いています。
ここで時間を取られるのは、従業員や顧問先からの問い合わせです。「この保険は控除になりますか」のような質問は、多くの人に共通する答えで済むものと、その人の事情を聞かないと答えられないものに分かれます。共通する答えは、あらかじめ用意しておけばAIや職員が返せます。
国税庁のチャットボットは、令和8年分の年末調整についての相談を、令和8年10月頃に始める予定です。一般的な質問の答えは国税庁のAIでも済むようになるので、事務所が時間を使うのは、その人の事情を聞いて決める質問のほうです。
税務相談と一次対応では、記録と下書きを任せ、答えそのものを税理士が持つ
税務相談は、5つの業務の中でAIに任せられる工程がいちばん少ない業務です。相談に答えることそのものは、税理士法第2条の税務相談にあたります。AIに任せるのは、答えの前後にある作業です。
答えの前にある作業は、問い合わせの受け付けと、内容の整理です。フォームで受けた問い合わせを、よくある質問か個別の相談かに振り分ける作業は、AIに任せられます。相談の記録を文字に起こして要点をまとめる作業も同じです。
答えの後ろにある作業は、答えを文章にして送ることです。税理士が決めた答えを、顧問先に送る文章の下書きにするところまでは、AIに任せられます。答えを決めるのは税理士で、AIはその前後の工程を受け持ちます。
税務調査への対応では、資料の検索と時系列の整理を任せ、説明を税理士が組み立てる
税務調査への対応は、判断と説明が中心の業務です。調査官への説明は、税理士法第2条の税務代理にあたり、税理士が行います。AIに任せられるのは、説明の材料をそろえる工程です。
過去の帳簿や契約書から、問われている取引に関係する資料を探し出す作業は、AIに向いています。取引の流れを時系列に並べ、どの時点で何を決めたかを一覧にする作業も同じです。
ただし、探し出した資料をどう説明に使うかは、税理士が組み立てます。AIが並べた時系列は、説明の順番ではなく、説明を作るための材料です。
着手する順番は、繁忙期から逆算して決める
5つの業務のうち、最初に手を付けるのは記帳と月次です。AIが入る工程が多く、毎月同じ手順を繰り返すので、試した結果がすぐに分かります。9月から10月のあいだに、照合の工程で回り始めている状態を作ります。
私は自分の事業で、税理士に頼みごとをする側でした。12月から3月は返事が遅くなるので、その前に済ませておくよう逆算して動く必要があると学びました。事務所の側でも、新しいやり方を試す時期は、同じように繁忙期から逆算して決めるのがよいと思います。
年末調整は、11月に書類が集まり始めます。記帳と月次で回ったやり方を、控除証明書の読み取りと不備の確認に広げるのが、この時期です。決算と申告書の作成は、繁忙期が明けた4月以降に、下書きと転記から試します。
税務相談と税務調査への対応は、最後にします。任せられる工程が少なく、記録の整理や資料の検索は、ほかの業務で回った仕組みをそのまま使えるからです。順番を決めておけば、繁忙期に入ってから慌てて試すことがなくなります。ひとつの工程で回り始めてから事務所全体に広げる進め方は、税理士のAI活用が定着する進め方|定型作業ひとつから3か月〜6か月で広げるで説明しています。
税理士業務にAIを入れるときの失敗例
| 失敗例 | どうするか |
|---|---|
| 業務の名前で丸ごと任せる | 工程に分け、合わない数字を誰が引き取るかを先に決める |
| 計算式や数字を確かめずに使う | 原本の数字と突き合わせる時間を予定に入れる |
| 文字に起こした固有名詞をそのまま通す | 人が目で確かめる工程を残す |
| 繁忙期の直前に入れ始める | 記帳と月次は遅くとも10月までに回し始める |
失敗例:業務の名前で丸ごと任せようとします。「記帳をAIで自動化する」と決めただけで、合わない数字の扱いを決めていないと、AIが出した仕訳がそのまま帳簿に残ります。私が自分の事業で受けた開発の案件にも、「細かいところは任せるので、とにかく自動化してほしい」と丸ごと預けられたものがありました。できあがったのは、動くけれど使えない仕組みでした。税理士業務でも、工程に分けて、合わない数字を誰が引き取るかを先に決めましょう。
失敗例:AIが出した計算式や数字を、確かめずに使います。下書きの段階では合っていた集計が、行を足した瞬間にずれることがあります。申告書に載せる数字は、原本の数字と突き合わせる時間を予定に入れます。
失敗例:文字に起こした固有名詞を、そのまま通します。相談の記録や領収書の読み取りでは、社名や人名の同音異字が入れ替わることがあります。固有名詞は、人が目で確かめる工程を残します。
失敗例:繁忙期の直前に入れ始めて、12月に止まります。11月に試し始めると、年末調整と重なって手が回らなくなります。記帳と月次で回り始めるのは、遅くとも10月までにしておくのが安全です。
よくある質問
Q: 税理士業務を全部AIに任せることはできますか。
A: できません。税務代理、税務書類の作成、税務相談は、税理士法第2条で税理士業務と定められていて、第52条で税理士と税理士法人以外は行えません。AIが受け持つのは、これらの業務の中の「受け取る」「入力する」「確かめる」の工程で、判断と説明は税理士が持ちます。
Q: 顧問先の数字をAIに入れても大丈夫ですか。
A: 入れる範囲を先に決めれば使えます。税理士には税理士法第38条で秘密を守る義務があり、職員にも第54条で同じ義務があります。入力した内容が学習に使われないことが契約で明記されたサービスを選び、顧問先名や個人名を入れずに済む形に整えてからAIに渡しましょう。国税庁のチャットボットにも、個人情報を入力しないようにという注意書きがあります。
Q: どの業務から始めればよいですか。
A: 記帳と月次の「確かめる」工程からです。明細と証憑の突き合わせは毎月同じ手順で、合わないものが出れば人が引き取る決まりを作りましょう。ここでうまくいったやり方が、年末調整や決算の照合にそのまま広がります。
Q: 職員が2人しかいない事務所でもできますか。
A: できます。工程ひとつから始めるので、人数は関係ありません。むしろ人数が少ない事務所ほど、照合にかかっていた時間が空いたときの差が大きく出ます。空いた時間を、月次の報告や相談に回してください。
まとめ
税理士業務にAIをどう使うかは、業務の名前ではなく工程で決めます。業務は、記帳と月次、決算と申告書の作成、年末調整と法定調書、税務相談と一次対応、税務調査への対応の5つです。それぞれを、「受け取る」「入力する」「確かめる」「判断する」「伝える」の5つの工程に分けます。
AIに任せるのは、「受け取る」「入力する」と「確かめる」の前半です。「判断する」と「伝える」は、税理士法で税理士業務と定められた仕事で、税理士が持ち続けます。
着手は記帳と月次からで、繁忙期の前に照合の工程で回り始めている状態を作りましょう。まず、顧問先1社の記帳を、5つの工程に分けて書き出してみてください。どの工程から任せればよいか迷う場合は、無料でご相談いただけます。
参考・出典
- e-Gov法令検索「税理士法」(第2条、第2条の3、第38条、第52条、第54条): https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000237
- 国税庁「チャットボット(ふたば)に質問する」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/chatbot/index.htm
- 国税庁「国税庁のデジタル・トランスフォーメーション」(国税庁におけるAIの活用): https://www.nta.go.jp/about/introduction/torikumi/digitaltransformation2023/index.htm
- 日本税理士会連合会「税理士制度」(2022年の税理士法改正によるICT化推進の明確化): https://www.nichizeiren.or.jp/cpta/system/
この記事を書いた人
関連記事

税理士の仕事はAIに取られるのか|AIに移る作業と、税理士に残る判断の分け方
「税理士の仕事はAIに取られるのか」という不安を、税理士法と国税庁のAIチャットボットをもとに整理します。仕事を作業と判断に分け、作業はAIに任せて、判断の中身を顧問先とホームページで伝える手順を説明します。税理士事務所のAI集客(GEO・AI-SEO対策)を支援する立場から、失敗例も紹介します。
2026/9/14

「AI 税理士」と検索する人は何を探しているのか|事務所のページで答える方法
「AI 税理士」と検索する人は、申告を安く済ませたい人、AIに強い税理士を探す経営者、業界の先行きを知りたい人の3種類です。事務所は前の2種類に、ページを分けて答えます。見出しと料金表の書き方を、自分のサイトが生成AIに引用された経験から、税理士事務所のAI集客(GEO・AI-SEO対策)の視点で説明します。
2026/9/9

税理士のAI活用が定着する進め方|定型作業ひとつから3か月〜6か月で広げる
税理士事務所のAI活用は、ツールを契約したところで止まりがちです。定型作業をひとつ選んで7割で動かし、設定と判断基準を文書にしてから広げる、3か月から6か月の進め方を説明します。支援先の税理士事務所で三点照合を自動化した例とよくある失敗を、税理士事務所のAI集客(GEO・AI-SEO対策)を支援する視点で紹介します。
2026/9/6

税理士のAIツール利用状況|ツール名でなく4つの用途で比較
2026年春に企業6,327社が答えた調査では、生成AIを組織で推進する中小企業は3社に1社で、4割近くは方針が未定です。この数字と支援先の実態から、AIに任せる範囲を4つの用途で決める方法を、税理士事務所のAI集客(GEO・AI-SEO対策)を支援する視点で説明します。
2026/9/3

税理士のAI集客|今日確認できる5か所を直して問い合わせを増やそう
税理士のAI集客では、新しい記事を書く前に、いまあるページを見直します。見直すのは、料金ページ、Googleビジネスプロフィール、税理士情報検索サイトの登録内容、問い合わせフォーム、過去記事の見出しの5か所です。5か所とも今日確認できるので、見るところと直し方を順に説明します。
2026/8/31

