税理士業務にAIをどこから入れるか|資料を受け取ってから申告までを6つの工程に分ける
税理士業務のどこにAIを入れるかを、顧問先から資料を受け取ってから申告や税務調査に対応するまでの6つの工程に分けて考えます。工程ごとに、AIに任せてよい範囲と、人が必ず確かめる点の2つを決めます。よくある失敗例も取り上げます。税理士事務所のAI集客(GEO・AI-SEO対策)を支援する立場から書いています。

「税理士業務 AI」で調べると、ツールの名前と「業務効率化」という言葉が並びます。読み終えても、自分の事務所のどの作業から始めればいいのかは、たいてい分からないままです。
私は税理士ではなく、税理士事務所の集客と業務の効率化を、AIと検索の面から支援する立場です。ここでは、顧問先1件の資料が事務所を通っていく順に、業務を6つの工程へ分け、工程ごとにAIへ渡せる範囲と、人が必ず見る点を決める方法を書きました。
「記帳」「申告」という役割の名前ではなく、資料が動く順に分けると、AIを入れる場所が決めやすくなります。
要約
- 税理士業務にAIを入れる場所は、「記帳」「申告」という役割の名前では決まりません。顧問先1件の資料が事務所を通る順に工程へ分けると、渡せる作業と人が決めることが分かれます
- 工程ごとに決めるのは、AIに渡してよい範囲と、人が必ず見る点の2つです。この2つが決まっていないと、出てきたものを結局は全部見直すことになります
- 始めやすいのは残高と証憑の突き合わせで、渡せる範囲がいちばん狭いのは個別の相談と税務調査への対応です
「業務効率化」と言われても、どの作業から始めるかが決まらない
| 手元にある道具 | それでも残っていること |
|---|---|
| 会計ソフトが仕訳の候補を出す | 出てきた候補を全部見直している |
| 領収書の写真から日付と金額を読み取る | 読み取れなかった分の扱いが決まっていない |
| 生成AIがお知らせの下書きを作る | 資料の催促と入力の時間は減っていない |
会計ソフトは仕訳の候補を出しますし、領収書の写真から日付と金額を読み取る機能も広く使われています。生成AIに頼めば、顧問先へのお知らせの下書きもすぐに出てきます。
それでも、事務所の1日は短くなっていません。繁忙期に入れば、これまでと同じように資料の催促と入力に時間を取られます。
理由のひとつは、試す場所を決めないまま、使えそうな道具だけを増やしたことです。どの作業をどこまで渡すのかが決まっていないので、出てきたものを全部人が見直すことになります。
決まらないのは、業務を役割の名前で並べているから
| 役割の名前 | その中に混ざっているもの |
|---|---|
| 記帳 | 資料を集める、仕訳を作る、残高を突き合わせる、顧問先に確かめる |
| 申告 | 前年との差を拾う、改正を反映する、判断の分かれる項目を決める |
| 相談 | 過去の回答を探す、顧問先の事情を聞く、説明の組み立てを考える |
「記帳」「申告」「相談」という呼び方は、事務所の中では通じます。ただ、これは工程の名前ではなく、役割の名前です。
たとえば「記帳」の中には、資料を集める、仕訳を作る、残高を突き合わせる、合わない数字を顧問先に確かめる、という別々の作業が入っています。手順の決まった作業と、人が決めることが、同じ名前の中に混ざったままです。
この状態で「記帳はAIに任せられますか」と聞いても、答えは出ません。混ざったまま渡せば数字の誤りを見落としますし、混ざったまま止めれば入力の手間は減りません。どの仕事がAIに移り、どの判断が税理士に残るのかは、税理士の仕事はAIに取られるのか|AIに移る作業と、税理士に残る判断の分け方で説明しています。
顧問先1件の資料が事務所を通る順に、6つの工程へ分けます
| 工程 | 資料の動き |
|---|---|
| 工程1 | 顧問先から資料を集める |
| 工程2 | 集めた資料から仕訳を作る |
| 工程3 | 残高と証憑を突き合わせる |
| 工程4 | 月次の資料を作り、顧問先に説明する |
| 工程5 | 年末調整と申告書を作る |
| 工程6 | 個別の相談と税務調査に対応する |
事務所の業務を、顧問先1件の資料が通っていく順に6つへ分けます。資料を集めるところから始めて、税務調査への対応で終わります。
工程ごとに決めるのは2つだけです。1つはAIに渡してよい範囲で、もう1つはAIが出したものを人が必ず見る点です。
この2つを書き出すと、どの工程から始めるかも決まります。人が見る点が少ない工程から順に手を付ければ、うまくいかなかったときの手戻りが小さくて済みます。
自分の事業でも、同じ確認を何度も繰り返す作業がいちばん手を付けやすいと感じてきました。2000年代にSEOの仕事をしていた頃は、検索順位のチェックに毎日1時間、月次レポートの作成に丸1日かけていました。帳簿の突き合わせも、これと同じ種類の作業です。
関連: 税理士業務のどこにAIが入るのか|5つの業務を工程に分けて任せる範囲を決める で詳しく解説しています。
6つの工程を、どこまでAIに渡すか
| 工程 | AIに渡せる範囲 | 人が必ず見る点 |
|---|---|---|
| 工程1 資料を集める | 催促の文面を作る、届いた資料を仕分ける | 資料がそろっているか |
| 工程2 仕訳を作る | 明細から科目の候補を出す、過去の仕訳にそろえる | 初めての取引と金額の大きい取引 |
| 工程3 残高と証憑を突き合わせる | 金額と日付が合わないものを拾い出す | 合わなかったものの扱い |
| 工程4 月次の資料を作り、顧問先に説明する | 比較表を作る、コメントの下書きを出す | 増減をどう説明するか |
| 工程5 年末調整と申告書を作る | 記入漏れを見つける、前年との差を拾う | 改正の反映と判断の分かれる項目 |
| 工程6 個別の相談と税務調査に対応する | 過去の回答を探す、説明用の資料を整える | 判断そのもの |
工程1 資料を集める
月次の資料がそろわず、催促の連絡に時間を取られる事務所は多いはずです。この工程で渡せるのは、催促の文面を作ることと、届いた資料を種類ごとに仕分けることです。
人が見るのは、資料がそろっているかどうかです。足りない資料をAIは教えてくれないので、顧問先ごとに必要な資料の一覧を先に作っておきます。
電子取引でやり取りした請求書や領収書は、電子帳簿保存法によって、データのまま保存することが求められています。紙に印刷したものだけを残す扱いは原則として認められないので、受け取り方そのものを顧問先と決め直す場面も出ます。
関連: 税理士の仕事はAIに取られるのか|AIに移る作業と、税理士に残る判断の分け方 で詳しく解説しています。
工程2 仕訳を作る
銀行明細やクレジットカードの明細を取り込んで、勘定科目の候補を出すところまでは渡せます。摘要の文字から過去の似た仕訳を探し、同じ形にそろえる作業も任せられます。
人が見るのは、初めて出てきた取引と、金額の大きい取引です。前例のない取引ほどAIは無難な科目に寄せるので、そこだけを抜き出して確認します。
工程3 残高と証憑を突き合わせる
銀行の残高、領収書、請求書を突き合わせる作業は、手順が決まっていて量も多いので、いちばん渡しやすい工程です。金額と日付が合わないものを拾い出すところまでを任せます。
支援先の税理士事務所では、銀行明細と領収書と請求書の三点照合をAIで自動化しました。異常値が出たときは、そこから先を事務所の人が引き取って判断します。確認にかかる手間は、その分だけ減りました。
人が決めるのは、合わなかったものの扱いです。入力の誤りなのか、資料が抜けているのか、取引そのものに事情があるのかは、顧問先に確かめないと分かりません。
工程4 月次の資料を作り、顧問先に説明する
前月との比較表や、科目ごとの増減をまとめた資料を作るところまでは任せられます。増減の大きい科目を並べて、コメントの下書きを出させることもできます。
人が見るのは、その増減をどう説明するかです。数字の動きに理由を付けられるのは、顧問先の事情を知っている人だけです。
工程5 年末調整と申告書を作る
年末調整では、集めた申告書の記入漏れを見つける作業と、扶養の要件についての一般的な質問への一次回答を渡せます。申告書の作成では、前年の数値と今年の数値を並べて、差の大きい項目を拾わせます。
人が確かめるのは、改正の反映と、判断が分かれる項目です。AIは古い年分の控除額をそのまま出すことがあるので、金額の根拠を毎回確かめます。
自分で生成AIを試していたときにも、配偶者控除の所得制限が古い年分のまま返ってきたことがあります。グレーな扱いの手法を「合法です」と言い切る回答も出ました。顧客の情報をどこまでAIに渡すかと合わせて、線引きを先に決めておかないと危ないと感じた場面です。
税務代理、税務書類の作成、税務相談は、税理士法で税理士の業務と定められています。AIに下書きを作らせても、中身を確かめて名前を出すのは税理士本人です。
工程6 個別の相談と税務調査に対応する
この工程は、渡せる範囲がいちばん狭くなります。過去の質問と回答を探すことと、説明用の資料を整えることくらいです。
人がやるのは、判断そのものです。同じ支出でも、事業との関係をどう説明できるかで扱いが変わり、その説明を組み立てるところに時間がかかります。
税理士業務にAIを入れるときの失敗例
| 失敗例 | 起きること | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| 6つの工程に一度に入れる | どこで誤りが出たか分からない | 工程1つを3か月続けてから次へ進む |
| 出た数字を元の資料と照らさない | 行が抜けても整った表に見える | 件数と合計金額を毎回比べる |
| ルールを書き残さない | 設定した人が休むと業務が止まる | 渡す範囲と確認の手順を文書にする |
| 顧問先に知らせずに資料を読ませる | あとから説明できない | 使う範囲を先に伝えて了解を得る |
失敗例:6つの工程に一度に入れます。同時に始めると、どこで誤りが出たのかが分からなくなります。まずは工程を1つに絞り、手順が固まってから次へ進むほうが確実です。広げる速さの目安は、税理士のAI活用が定着する進め方|定型作業ひとつから3か月〜6か月で広げるで説明しています。
失敗例:AIが出した数字を、元の資料と照らさないまま使います。取り込みの途中で行が抜けても、出てきた表は整った形に見えるものです。件数と合計金額だけでも、毎回元の資料と比べます。
失敗例:設定した人の頭の中だけにルールが残ります。渡す範囲と確認の手順を書き残さないと、その人が休んだ日に業務が止まります。
失敗例:顧問先に知らせないまま、預かった資料をAIに読ませます。あとから聞かれて説明できないと、資料の預かり方そのものを見直すことになりがちです。使う範囲を先に伝えて、了解を得ておきます。
よくある質問
Q: どの工程から始めるのがよいですか。
工程3の突き合わせから始める事務所が多いです。手順が決まっていて量が多く、合わないものが出れば、その場で分かります。
Q: 工程を分けても、結局は全部を確認することになりませんか。
確認する量は変わりますが、見る場所は減ります。工程ごとに「人が必ず見る点」を1つか2つに絞っておくと、その点だけを見る形に変わります。
Q: 6つの工程は、事務所によって変えてよいですか。
変えて構いません。資料の集め方も顧問先の業種も事務所ごとに違うので、自分の事務所で資料が動く順に並べ直したほうが使えます。
Q: 会計ソフトのAI機能だけで足りますか。
工程2と工程3は、会計ソフトの機能でかなりの部分をまかなえます。工程1の連絡や工程4の説明資料は会計ソフトの外にあるので、そこは別の道具を足すことになります。
まとめ
税理士業務にAIを入れるときは、「記帳」「申告」という役割の名前ではなく、顧問先1件の資料が事務所を通る順に工程へ分けます。工程ごとに、AIへ渡す範囲と、人が必ず見る点の2つを決めます。
始めやすいのは工程3の突き合わせで、渡せる範囲がいちばん狭いのは工程6の個別対応です。人が見る点が少ない工程から順に進めれば、手戻りを小さくできます。
手が空いた分をどこに使うかは、事務所ごとに変わります。新しい顧問先からの問い合わせを増やしたいなら、検索からも、生成AIの回答からも見つけてもらえる形にしておきたいところです。今のホームページがどちらに向いているかを見るところから、無料相談でお話しします。
参考・出典
- 国税庁「電子帳簿保存法関係」: https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/index.htm
- 日本税理士会連合会「税理士とは」: https://www.nichizeiren.or.jp/cpta/about/
- e-Gov法令検索「税理士法」: https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC0000000237
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